遺伝子治療・ゲノム編集プロジェクト

1)遺伝子修復を利用した造血系遺伝病の安全な治療法の開発

 遺伝病である重症複合免疫不全症に対する遺伝子治療において、レトロウイルスベクターを用いて正常な遺伝子を補完することにより良好な治療効果が得られるようになりました。しかし、レトロウイルスベクターはランダムに遺伝子をゲノムに組み込むため、患者の一部に癌遺伝子への挿入変異を原因とする白血病が発症し大きな問題となりました。2013年にCRISPR-Cas9システムを用いたゲノム編集法が発明され、ゲノム上の目的部位の正確な修復が現実的に可能となりました。我々は安全で安定した治療を行うために、現在はファンコニ貧血や重症複合免疫不全症をモデルとして遺伝子修復法の開発に取り組んでいます。 一つの試みとして、当研究室で開発されたヘルパー依存型アデノウイルスベクターを用いて、通常より長い正常遺伝子配列をCRISPR-Cas9と同時に細胞内に入れることにより効率性と安全性を高めます。


↓ クリックすると拡大します。



2)ヒト多能性幹細胞における効率の高いゲノム編集法の開発

 ヒト多能性幹細胞(ES細胞、iPS細胞)は、難病に対する再生医療への応用ならびに創薬のための薬剤スクリーニングに用いる細胞のソースとして注目されています。しかし、遺伝子導入、特に相同組換えによるノックアウト・ノックインが困難であり、研究を進める上での障害となっています。そこで、ヒトES/iPS細胞を用いて、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス等のベクターを用いた遺伝子発現法ならびにゲノム編集法の高効率化を検討しています。また、この研究の過程で、ヘルパー依存型アデノウイルスベクターを用いた場合に相同組換えの頻度が特に高いことが明らかになったので、その機構の解明を目指しています。


3)アデノウイルスの増殖特性の解析

 ヒトアデノウイルスは現在60種以上の血清型が同定され、塩基配列の類似性や臨床症状によって6つのグループに分類されます。その中では気管支炎の原因となる5型ウイルスが主な研究対象ですが、その他の血清型についての研究は遅れています。我々は下痢症患者より単離された新しい血清型のウイルス株を対象として、培養細胞におけるウイルス増殖機構の特性の解明を目指しています。新しいアデノウイルスベクターを作り出すことにより、今までできなかった疾患に対する遺伝子治療の可能性が出てきます。


ページのトップへ戻る